かつて私がプラモデルの世界に没頭していた頃、何よりも励みになったのは、個人が綴る情熱の軌跡でした。
岬光彰さんのブログ、「イクチオステガ」。その名を聞けば、当時の私は胸の奥に熱い憧憬を感じずにはいられません。
ブログの文章は単なる情報の羅列ではなく、岬さん自身が模型作りに注ぎ込む手の感覚や、素材への愛情、道具の扱い方に至るまで、細部に魂を宿すかのようでした。
ページを開くたびに、私はその制作のリズムに導かれ、静かに手元のプラモデルと向き合ったものです。
しかし、最近になってふと思い立ち、あのブログの所在を調べたところ、残念ながら閉鎖されていることを知りました。
言葉では表しきれぬ喪失感が胸をよぎりましたが、それと同時に、あの時間が私の技術や感覚の礎となったことを改めて実感しました。
ブログを通じて私が特に影響を受けたのは、道具へのこだわりでした。
中でも「T型スライド定規」は、岬さんが自ら設計したオリジナルの逸品で、模型製作における精密な作業を格段に助けるものでした。
単なる定規ではなく、模型のパーツにスジを刻む際や、正確な角度を測る場面で、その存在感を十二分に発揮する道具です。
岬さんは設計図を描き起こし、ステンレスを切断してくれる業者に依頼し、自分の思い描く理想の形を現実のものとしていました。
その緻密な設計は、機械加工の知識と模型への情熱が結実したものであり、見る者に強い印象を残すものでした。
驚くべきことに、そのオリジナル設計のT型スライド定規は、現在「スジボリ堂」という専門店で販売されているのです。
岬さんの設計思想を受け継ぐ形で、愛好者の手に再び渡ることができるのは、模型文化の継承という意味でも喜ばしいことです。
私自身も久しぶりにその存在を知り、購入を検討する気持ちが湧き上がりました。リンクを辿れば、製品の詳細や寸法、使用方法まで丁寧に説明されており、現代の模型愛好者にとっても非常に有用な情報源となっています。
さらに、同様のコンセプトで設計された道具として、WAVE社から販売されている「HGスライドT定規」も挙げることができます。
こちらは市販品として広く手に入る点が魅力で、手軽に精密作業を楽しみたい愛好者に最適です。
私が感銘を受けた手仕事の丁寧さと精密さは、そのまま現代の製品にも引き継がれており、道具の価値や楽しさを改めて考えさせられます。
模型作りにおいて、道具と技術、そして創造力の三つは切り離せない関係にあることを、この二つの定規は静かに語りかけているようです。
思い返せば、私が初めてT型スライド定規に触れた時の感覚は、今でも鮮明に覚えています。
手にした瞬間、金属の冷たさと適度な重みが指先に伝わり、これまでの作業とは明らかに異なる精度をもたらしてくれることがわかりました。
模型の細かいディテールに線を入れるとき、まるで道具そのものが私の意志を理解しているかのように、スッとラインが刻まれていくのです。
岬さんが自身の手で設計し、業者と共に形にしたその定規は、単なる物理的な道具に留まらず、作り手の心意気や技術への敬意までを伝える媒介であることに気づかされました。
このような道具や情報が現代に残っていることは、プラモデル文化の豊かさと奥深さを象徴しています。
ブログ「イクチオステガ」は閉鎖されてしまいましたが、そこから生まれた技術や考え方は、定規という形で今もなお生き続けています。
そして、WAVEのHGスライドT定規のように、メーカーによって広く流通する製品が生まれることは、個人の情熱が社会に還元される好例とも言えるでしょう。
模型作りは、一見すると孤独な趣味かもしれません。
しかし、道具や情報を通じて先人の技術や思考と繋がることで、時間と空間を超えた対話が可能になります。
閉鎖という物理的な終わりはあっても、創作の精神や道具の価値は永遠に続く。私はそう確信しています。
そして今、手元に新たな定規を迎え入れることで、当時の熱気や感動を少しずつ現代に蘇らせることができるのではないか、とささやかな期待を抱くのです。